ネットワーク工学の進化

ネットワーク工学の研究は先細りだ、と思っていた。

 

ネットワークは普及すればするほど自分自身を縛っていく。つまり、既存の価値を守るために自分自身を変えることが難しくなる。ネットワーク効果の反作用。つながるものが増えれば増えるほど価値がでてくるなら、逆に、つながっていたものを分断したり新しいネットワークを立ち上げ直したりする痛みは大きくなるのだ。

 

古いネットワークの仕組みが残る。

 

これは古いしきたりがいつまでも残るということだ。しきたりには、明文化されたプロトコルだけでなく、長い議論の中で醸成された不文律が含まれている。この不文律は昔からいる人たちの頭のなかにだけ残っている。

 

しきたりを体系化し、時代の要求に合わせて修正・拡張し、そして引き継いでいく仕事は必要だろう。ただ、そのためには昔からいる人たちの弟子となり厳しい修行に耐えなければならなかった。そして、既に十分すぎるほどの弟子たちがいるように思えた。

 

それでは今からネットワーク工学に手をつける必要はないのか。

 

そうではない。

 

ネットワーク工学は、暗に前置されていた「コンピュータ」から脱却し、進化したのだ。つまり、ネットワークを作る手段として、コンピュータネットワークの仕組みが成熟し、その先のネットワークを考えられるようになったのだ。

 

その先のネットワークとは何か。人の生き方により関連が強い「もの」や「概念」のネットワークだ。

 

「もの」や「概念」のネットワークと聞くと、流行のIoT (Internet of Things)やSNSを思い浮かべるかもしれない。しかし、IoTやSNSは、コンピュータの世界に「もの」や「概念」を引き込んだ後の問題を扱っている。コンピュータの世界を広げていくことも大事だが、コンピュータの外にもネットワークは広がっている。

 

「もの」や「概念」をつなげるとは何か。議論はそこまでさかのぼらなければならない。「もの」の状態を知るのか。「概念」を操作するのか。

 

例えば、「もの」の状態を知るために必ずコンピュータを組み込む必要がある訳ではない。赤ちゃんが泣いていないか、機械から火花が散っていないかを知るためには離れたところから体温や音、画像が得られれば十分かもしれない。状態を知るべき対象、センシングの知識があればコンピュータの外へネットワークを広げられる。

 

つまり、ネットワーク工学は、コンピュータの世界の外にも目を向け、何をつなぐのか、そしてどのつなぐのか議論していく場になった。物理学、心理学など様々な分野を含む大きな分野になるはずである。

 

自分は何をつなげるエンジニアなのか。発想をコンピュータに閉じず、どんどん広げていきたい。